そろそろ秋を感じる日も出て来た。馴染みの町中華の古びたドアには「冷やし中華始めました」と貼ってある。
そう、ここは真冬でもこのまま。
そしてこのまま次の夏にも持ち越されるため、日に焼けて文字も薄くなっている。
美味しい店あるあると言えば風情とも感じられる「油でベタついたメニュー」を開くと、そこはもう異世界だ。
ラーメン、餃子、チャーハン……と並んでいるのはいい。
次のページには「オムライス」「ナポリタン」「カツ丼」。
おいおい、中華どこ行った?
だが、町中華ではそれが普通。
ジャンルの壁なんて、餃子の皮より薄いのだ。
先日、昼時に訪れて天津飯を頼んだときのこと。
運ばれてきた瞬間、あまりの速さに「頼む前に作ってた?」と聞きたくなった。
もはや、大将の昼ごはんにしようとしてたものをタイミングよく横取りしてしまったのかもしれない。
卵はふわふわ、琥珀色に透き通ったあんは蛍光灯に照らさて輝き、完璧なビジュアル。
…あぁ、いつ食べても裏切らないこの味。
「天津飯って本場中国には存在しないんだよなぁ……」と改めて不思議な気持ちになる。
天津市の人が食べたら「うまい!」と言って完食するのだろうか。
日本人が酸辣湯に麺を入れ、八宝菜をご飯に乗せて中華丼と名付けたように、
もしくは伝言ゲームの果てに爆誕したとしか思えない「ミソスープうどん」in アメリカのように、
異国で一人歩きする独自メニューには哀愁すら感じる気がしている。
町中華は国境を超え、ジャンルの壁も消滅した先にある究極のエンタメなのかもしれない。
そんなことを考えながら、天津飯を完食し、私はバッグから町中華ポーチを取り出した。
よくできてるよなぁと思いながら、チャーハンの刺繍を指でなぞり、
「お会計お願いします」と一言。
ポーチから取り出したミントガムを噛みながら、自宅に戻る。
町中華ワンダーランドに迷い込んだ昼休みだった。
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